みどりの未来(公式サイト:β版) > 政策・論評 > 4.29up:【会員から】越境する地域政策は世界を変えるか?
加藤 良太/みどりの未来運営委員

2009年04月29日

4.29up:【会員から】越境する地域政策は世界を変えるか?
加藤 良太/みどりの未来運営委員

以前、ある学術誌に関わる大学教員から、こんなボヤキを聞いた。「『越境するガバナンス(注)と公共政策』というテーマで論文
を集めたら、国際政治の場を舞台に、政府や国際NGOが活躍するガバナンスや政策に関する論文ばかりが集まってしまった。
編集者としては、もっと『越境する』というところを深読みして欲しかったのに・・・。」

編集側の意図としては、例えばEUでの地域・自治体レベルでの環境政策の広がりのように、市民から程近いガバナンスの現場である地域や自治体を舞台に、先駆的な地域政策が行われ、それらが他の地域や自治体にマネされていくことで、結果として、草の根市民発のガバナンスが、国家や国際政治の枠組みを越えた公共政策のデファクト・スタンダード(事実上の標準)を網の目のように広げていく。そんなイメージをもった論文を期待していたというのである。

直面する金融危機と新たな経済社会の模索、「テロとの戦い」以降の平和のあり方、地球温暖化への取り組み・・・地域〜地球規模で取り組むべき課題は、誰でも指折り挙げることができる。しかし、それらの課題に取り組むための政策を決める場は、私たちから程遠い、国家対国家、ガバメント(政府)のパワーがぶつかり合う国際政治の場である。私たちは、そうした場で生み出された政策に従って、それぞれの生活の場や地域で「私たちにできること」を実践するのが良いことだ、と疑いなく受け入れてしまっている。あるいは、地球規模の政策に対して意見があるときは、国際政治の場にアクセスできる政府に意見書を出すとか、国際NGOの署名に応じることが当然だと思いこんでいる。地球規模の課題だからといって、私たちから程遠いところに決定権を委ねなければならないのだろうか。私たちは、自分のやるべきことを自分たちで決め、実行に移す権利を持っているはずだ。

 最近、国際協力の分野では「リンキング」という新しい取り組みが注目されている。従来の援助する側とされる側の関係性を破り、かつ、国家対国家というODA(政府開発援助)の原則を越えて、途上国(とされてきた側)の地域社会と、先進国(とされてきた側)の地域社会がパートナーシップを組み、相互に人的交流や地域開発の仕組みや手法、政策の「学び合い」をするのである。
日本でも自治体国際協力として、ODAを通じて途上国の自治体に職員を派遣し、行政のシステムを教えるような事例はこれまでもあったが、リンキングの場合は、先進国の地域・自治体が途上国の地域・自治体に学ぶこともあるわけである。実際、途上国の地域・自治体の方が後発組の強さで、住民参加や直接民主制的なコンセンサスのシステム、循環型の地域社会づくりなどで先進的な取り組みをしているところも少なくなく、地方自治が硬直化した先進国の地域・自治体が学ぶことも多い。こうした動きは、国家の制度・枠組みに規定されてきた地域・自治体を解き放ち、政策やガバナンスを介して地域・自治体に国家を越えたつながりを生み出していく。これこそ、冒頭に紹介したような、国家を越えた地域のつながりが世界を変えていくイメージである。

 みどりの政治に取り組む人々は、地域の身近な課題への関心にはじまり、地球規模の課題へのチャレンジへと歩みだしていくという点において、関心の方向性を共有している。一方で、国レベルの課題に取り組み、既存の代表民主制の政治システムの中に参入しようとすればするほど、地域で活動していた時代から大事にしてきた「草の根」の行動原理から離れていくジレンマを抱え、悩んできた人も少なくない。そんな人々にとって、『越境する地域政策が世界を変えていく』というビジョンは、ひとつのオルタナティブになり得るのではないだろうか。ただし、この道は、私たち自身に「内なる民主化」、つまり、地域・自治体レベルで本当の意味での民主主義、オープンなガバナンスを実現しなければ、結局、市民に程遠いところで大事なことが決まっていく仕組みは何も変わらないという点で、自らに厳しい道でもあることを忘れてはならないだろう。(了)

(注)ガバナンス=「統治」から「政府・自治体が担う」という前提を取り除いた概念。しばしば「共治」とも訳され、市民やNGOの参加とともに語られることが多い。(筆者)

posted by GREENs at 00:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 政策・論評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック